奈良地方裁判所 昭和46年(行ウ)3号 判決 1976年10月29日
奈良市北風呂町二三番地
原告
辻善昭
東京都千代田区霞ヶ関一
被告
国
右代表者・法務大臣
稲葉修
右指定代理人
吉田文彦
同
右 松下恭臣
同
右 麻田正勝
同
右 西田春夫
同
右 中谷透
同
右 米田一郎
同
右 鬼束美彦
右当事者間の昭和四六年(行ウ)第三号賦課処分無効等請求事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は「被告は原告に対し金五万円およびこれに対する昭和四七年一〇月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因としてつぎのように述べた。
「一、原告は昭和四一年度分の所得税の損失申告書を昭和四二年三月一五日に奈良税務署長宛提出したところ、同署長は同年一一月二〇日原告に対し更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分をした。
そこで原告は同年一一月二二日異議申立をしたが、昭和四三年七月九日異議申立棄却決定を受けたので、原告は大阪国税不服審判所に審査請求をなしたところ、更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分は不存在である旨認定した裁決を得た。
二、原告は不存在の賦課決定処分のため、精神上損害を蒙つた。
右は国の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意または過失によつて違法に原告に損害を与えたときに該るから、国家賠償法にもとづき被告に対し慰謝料として金五万円の支払を求める。」
被告は主文同旨の判決を求め、答弁として原告の請求原因一項の事実を認め、二項の事実を否認し、つぎのように述べた。
「一、原告はその所有にかかる奈良市北風呂町二三番地の一の宅地七九・八〇坪および同地上の建物(木造瓦葺平家建住居)一棟二六・〇二坪が奈良国際文化観光都市建設街路事業の用地として奈良市によつて昭和四一年四月二九日をもつて収用され、その収用補償金四三四万八、七四〇円の支払いを受けた。(供託による。)
二、原告は昭和四一年分の所得を奈良税務署長に申告するにあたり、右収用は無効であり、この行為によつて土地建物家財等について六〇〇〇万円の損害を受けたとして、逆に所得税の損失申告書を昭和四二年三月一五日同署長に提出した。
三、そこで同署長は右補償金のうち三七〇万三、七四〇円が課税の対象となる譲渡所得であるとして更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分(以下更正処分等という)をなし、その通知書を昭和四二年一〇月一七日付書留郵便をもつて発送した。
四、ところが右通知書は原告不在の理由で郵便官署に留置きの上返戻され、その後同年一一月二〇日原告が奈良税務署に来署したので、担当職員は原告に右更正処分等の説明をなした上更正通知書を手交しようとしたが、原告はその受領を拒否し、同年同月二二日付で署長に対し右更正処分等に異議申立をなした。
そこで同署長は同年一二月六日付書留郵便をもつて再度原告に宛て更正通知書を発送したが、前回同様原告不在の理由で郵便官署に留置きとされた上、返戻された。
同署長は原告の異議申立に対しこれを棄却する旨の決定をなし、昭和四三年七月九日右決定書を原告宅に差置送達した。(同年六月一七日書留郵便で発送したが原告不在の理由で返戻されたため。)
原告は右決定に対し同年六月二八日審査請求をなしてきたので国税不服審判所長はこれを審理した結果、署長の更正処分等が不存在であると認定し、存在しない処分に対する審査請求は不適法であるとして却下する旨の裁決をなして、裁決書謄本を原告宅に差置送達したものである。」
(証拠関係)
被告
乙一号証(原告成立不知。)
職種
原告本人
理由
一、原告の請求原因一項の事実については両当事者間に争いがない。
二、その方式、趣旨に照らし公務員が職務上作成した裁決書謄本として真正に成立したことが認められる乙一号証に原告本人尋問の結果を総合すると、被告の答弁事実をその儘認めることができ、結局原告主張の賦課決定処分は内部的にその旨決議が成立したのみで、原告に対する課税処分として成立したこともなく、もとより原告はなんらの課税も受けたことがないことが明らかであるから、原告がこれにつき精神上の損害を蒙る筈もないと解するのが相当である。
よつて原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡村旦 裁判官 宮地英雄 裁判官 安達嗣雄)